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食×職~私のこだわり~
「生産者を知り、感謝する食」前編

「食」に関わる仕事に就くプロフェッショナルが、こだわる「食」とは何だろう。
例えばそれが、仕事にどのような形で生かされてくるのか。食に最も深く関わる立場の人々だからこそ、注目している「食」とはどんなものだろう。

今回、そんな疑問にまず応えてくれたプロフェッショナルは、林真由さん。東京でレストラン「お取り寄せダイニング 十勝屋」を運営するほか、情報誌「北海道食べる通信」の編集長である彼女が考える「食×職」とは。

林真由 ▲林真由(はやし・まゆ)。1979年、北海道生まれ。株式会社グリーンストーリープラス代表取締役。
ヤフーを経て、2005年より出身地の十勝にある十勝毎日新聞社に勤務。2006年、新規事業として銀座コリドー街に「お取り寄せダイニング 十勝屋」を開店。十勝の食材の魅力やそのストーリーを伝える。
そこで得た経験を活かそうと2015年6月『北海道食べる通信』創刊。ジュニア野菜ソムリエ、北海道フードマイスターなどの資格を持つ。

離れてわかった、
故郷・十勝の魅力

食に関わるお仕事をされるきっかけは何だったのでしょうか?

私は出身が、食の宝庫の地域と言われる北海道の十勝なんですよ。日本の自給率が39%と言われている中、十勝というエリアは自給率が1,200%。日本の胃袋を支えている場所と言えるところです。

大学まではそんな地元を田舎だと思っていて、早く都会に出たいと東京で就職をし、十勝を離れました。けれど、父の病気を境に地元と東京を行ったり来たりする生活となったんです。それが十勝の食材や名産品、果ては自身のアイデンティティというところを振り返るきっかけになりました。

自分が生まれた故郷の十勝って、実は特別で素晴らしい場所だったんだと思うようになり、それから十勝に帰って地元の新聞社に入社しました。社会人3年目、25歳の時です。
その新聞社に当時、飲食店を出すという構想がありました。十勝の名産品を広く知ってもらいたいという思いから、その出店を任せてもらい、2006年10月に「お取り寄せダイニング 十勝屋」をオープンしました。
十勝屋外観▲銀座コリドー街にある十勝屋。北海道産のこだわりの食材を味わうことができる。

生産者の想いを伝える雑誌
「北海道食べる通信」

「食べる通信」とは、食の生産者を特集した雑誌とその人がつくりあげた旬の食べ物がセットで届く「食べ物付き情報誌」のこと。全国各地の「食べる通信」が発行される中、林さんは北海道エリアの「食べる通信」編集長も務める。

北海道食べる通信は、どういったお気持ちで創刊されたんですか?

十勝屋をやっていく中で、私が飲食店を多店舗展開したいという思いに至らなかったんです。生産者の情熱やこだわりを伝えたいとそんな風に思っていたところが大きくて。

それじゃあ、飲食店よりも広く十勝の魅力を発信する方法はないかと思っていたところ、食べ物付きの情報誌で生産者のストーリーと思いを伝える「食べる通信」というモデルに出会いました。

今、スーパーでは顔が見える食材って言うのもありますけど、生産者の魅力って名前と顔写真つきのシールだけでは実際に伝わらないと思うんです。その人がどういう風に頑張っているのかという背景をもっともっと伝えたいと思ったら、文字や写真を使って、こういう雑誌で取りあげることがとても大事だなと。そう思って、「北海道食べる通信」を発行しようと思いました。
北海道食べる通信▲届いた食べ物は、どのような思いで、つくられたものなのか。それを「北海道食べる通信」では伝えていく。

消費者の知らない食の裏側
<酪農家に生まれたオス牛の命>

生産者の思いを伝えるにあたって、どのような工夫をされていますか?

写真を大きく多用して、読んでみたいなと思ってもらえるように意識していますね。あとはその食材の裏側にある、問題提起も盛り込んだりしています。

例えば2017年6月号では十勝若牛のお肉とブラウンスイス牛のコンビーフをお届けしたのですが、この時に雑誌のテーマにしたのが「酪農王国で生まれたオス牛がどうなっているか、皆さんは知っていますか?」という問題です。

牛乳は当然、メス牛からしかとれないですよね。それじゃあ、酪農をする農家さんで生まれたオス牛はどうなるのか。

乳牛用のホルスタイン、チーズを作る用のブラウンスイスやジャージー牛、あとはイタリアでもモッツァレラを作るための水牛のオス牛は、牛乳やチーズの需要があるのと表裏一体の問題です。そういう酪農種のオス牛は、専用の加工場でペットの餌やコラーゲンの原材料になります。

その取引相場も、生まれつき弱い子牛には二束三文の価格しかつきません。ずっと昔は、酪農家にオス牛が生まれると川に流していたなんて話も、私自身取材の過程で聞いて驚きました。

私たち消費者が牛乳を飲み、チーズを楽しむ裏で、そんな社会的背景があるのをご存じですか?という問題提起。そしてそのオス牛の命を活かしきって、無駄にしない畜産にするために頑張っている生産者がいるということ。

消費者がそれらの事実を知ると、「食べる」という日常の行為に改めて感謝の気持ちがわいてくる。そういったことを伝え、感じてもらえるような特集にすることを、心がけています。

確かにそういった社会的背景を知ると、いざ食べる時の心構えが違ってきますね。

牛は経済動物と言われます。生まれた命を生後数日で奪うのか、育ててお肉にするのか、いずれにしても人間の勝手で命の長さを決めています。そういうことも含めて産業なので、何がいいのか、悪いのか、そして100%否定することはできません。

ですが、その事実に対して、真摯に向き合う生産者さんがいることも知ってもらいたいです。その人達の思いに共感してもらえたらいいかな、なんて思っています。
北海道食べる通信 6月号▲酪農家に生まれた子牛を取り巻く環境を特集した記事。ブラウンスイスの子牛のつぶらな瞳がとても印象的。

「北海道食べる通信 2017年6月号」で届くお肉とコンビーフは、「酪農家に生まれた牛の命を食として活かそうとする生産者」がつくる加工品だと言う。

酪農家で生まれたオス牛を育て、「十勝若牛」という食肉としてブランド化しようとする生産者。そして、同じく乳用牛であるブラウンスイス牛の肉だけを使ったコンビーフをつくる生産者。

彼らは生後数日の乳用牛のオス牛を引き取り、愛情を持って育て、価値ある食肉として出荷することで、畜産業で生まれた命を少しでも生かし、活かそうと努力をしている。

そこで語られる背景は、生産者の情報を示す1枚のシールなどではとても知ることができない、まさに「消費者の知らない、生産者の物語」だった。

飲食店経営・雑誌の編集長として、十勝の食と生産者の魅力を伝え続ける林さん。

インタビュー中編では、彼女の「職と食のこだわり」に迫ります。

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