Chewin' Mag.

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食×職~私のこだわり~
「生産者を知り、感謝する食」中編

北海道十勝の食の魅力を、飲食店経営・雑誌の編集長として伝える林さん。
そんな彼女に、「職」の魅力と「食」のこだわりを聞いた。

命の神秘を知り、
食の大切さを知る「職」の醍醐味

お仕事をしていく上で、大変なことややりがいを教えていただけますか?

大変なことはやっぱり、北海道広いということですかね。(笑)

取材で文字通り飛び回っていますけど、遠くは北海道の北も北、利尻島まで行ってきました。その他は、オホーツクの北方領土手前の野付半島など。初めて行くところも多いのでワクワクはしますが、反比例して移動距離は、往復で軽く1000キロを超えることも多く、本当に大変だなと思います。

ただ、それと同時に、やりがいも生まれます。

お店を10年経営している中で取り扱ってきたので、北海道の食材について、きちんと知っているつもりでした。ですが、実際にその地域に行って、それをつくっている人に会ってみると、その思いに触れて、改めて魅力を発見したり、取り巻く環境に問題があることを知ったり。本当の意味で、知らないことが多かったことに気付かされます。
取材現場▲北海道の各地を飛び回り、生産者に取材をする。

「知っていると思ったけれど、知らないこと」というお話がありましたが、
それを実感したエピソードがあれば教えてください。

先ほどお話ししたオホーツクには、サケ釣り漁の漁師さんを取材しに行ってきたんです。9月から秋鮭の漁が始まるんですけど、船に乗ってそれを取材してきました。

サケって稚魚を育てて放流しますよね。人の手で卵を孵化させて、何万匹という稚魚を川に流して、4年後にそのサケが帰ってくるのを待つ。それがサケの放流です。自分が生まれた川に戻ってくるなんて、不思議ですよね。

漁自体は、定置網を沖合に仕掛けておいて、帰ってきたサケを網で捕まえて水揚げします。定置網で捕まらなかったサケが、産卵をするために川に上っていくんですよ。放流する川には「さけマスふ化場」があり、そこで捕まえたサケの卵を大切に春に孵化させて放流する……それを繰り返して、サケ漁は成り立っています。

卵を生むために川を上っているサケを間近で見たときに、そんな背景を思うと本当に感動しました。

4年間かけて大冒険して帰ってきたサケが、体ボロボロになって川を上ってくるわけです。運良く自然界で人間に獲られなかったとしても、産卵を終えたらサケは川の中で力尽きて死にます。体中傷だらけで色も変色して顔つきもすごいものになっていて、それでも子孫を残すために川を上るんです。

このサケは生きるために、命を次に繋ぐためだけに本当に必死なんだなと。ひとつの目的のためだけに頑張るって、こういうことなんだと言うことを自然界に教えてもらいました。
オホーツクの秋鮭漁② オホーツクの秋鮭漁②▲北海道の秋鮭漁。命の神秘とそれを頂くことの大切さを実感したと言う。

次の命を繋ぐため、必死で生きるサケの姿。そしてそれを獲る船に同乗させてもらい、取材をしていると、漁師さん達がサケの命に感謝しながら漁をしているというのを感じられたことにも、やはり感動したのだと林さんは語る。

素晴らしい生産者と食材との出会い。彼女にとっての「職」のやりがいは、そこにある。

買い物は投票と同じ。
無関係な消費者ではいないという「こだわり」

お話を聞いていると、林さんのお仕事を通じたこだわりは「生産者を知ること」にあると感じます。

北海道の生産者、特に農家さんは、他の地域の生産者と違って、わりと経営者視点の人が多いんですよ。どうしてかと言うと、大規模に農業をやっているからなんですよね。

大規模イコール機械でやって、農薬バンバン使ってというイメージもあると思いますが、今はそういう感じじゃありません。どうしたらおいしくなるのか、どうしたら消費者に安心安全を届けられるのか。そういうことを考えて、日進月歩で工夫してやっている素晴らしい生産者がたくさんいます。

ただ、日本全体を見ると、生産者人口って実は全体の2%しかいないと言われています。さらに農家の平均年齢は65歳以上が50%を超えるという中で、10年後のことを考えてみると、生産者人口は1%を下回るような現状も目の前まできています。

食べ物に対して私たち消費者は「あるのが当たり前」と思っていますけど、それが難しくなる現実はもう目前まで迫っているのかもしれません。

スーパーに食べ物が並んでいる光景が当たり前と思うのではなく、生産者をもっと身近に感じて、つくられた食べ物に感謝して頂くということを消費者側に意識してもらいたいと思っています。
イメージ▲当たり前に口にしているものから「国産」のものが消えてしまうかも……?

「買い物をするということは投票と一緒です」って、私はよく言います。

私たち消費者の買い物こそが、未来の生産者を決めているんです。

「国産がいい、中国産は嫌だ」とか、天候不順で野菜の価格が高騰すると文句言ったりだとか、異物混入で必要以上に騒いだり。消費者の権利と言わんばかりに口を開けて待ちながら、単に意見を言うだけじゃなくて、食を巡る経済活動に消費者も積極的に参加しないといけないんですよね。

選挙で投票をして政治を決めるように、私たち消費者は食べるものに対しても、買い物という投票行為を通じて、将来の「食文化」を担ってほしい生産者にお金を投じる。そのために、「食べる通信」などを通して素敵な生産者に共感してもらい、生産者を積極的に応援していく風潮が広まればいいなと思っています。

そんな林さんの考える「食のこだわり」は何でしょうか?

先ほど言った考えもあり、私は高くても食べ物は国産のものを買うように徹底しています。それから、できるだけ「誰のつくった食材なのか」ということがわかる食卓を心がけています。

私は職業柄、「井ノ口さんがつくったチーズ」とか「押谷さんのアスパラ」とか、実際に誰がどういう気持ちでつくったものなのか、わかる食材を仕入れることができます。そうすると、食材を大切に使いますし、「食」への感謝の気持ちを改めて持つことが出来ます。

「○○さんがつくった野菜で作った料理」と意識しながら食事をすると、単に食べ物が「もの」で終わらないというか。生産者の顔を思い浮かべながら食べるということが、私のこだわりでしょうか。

食卓写真▲国産にこだわる林さんの家の食卓。1つ1つに生産者の思いがこもる。

食べ物とそれをつくる生産者を「当たり前」と思わず、常に感謝の気持ちを持つこと。つい普通に生活していると忘れがちな意識を、思い起こしてもらうきっかけになればいいと話す林さんの「職のこだわり」は、自身の「食のこだわり」にもしっかり反映されているようだ。

そんな彼女が経営する「十勝屋」では、北海道産の食材を使った料理を味わうことができる。また、「北海道食べる通信」では、北海道産のおいしい食材が「生産者のストーリー」と共にお届けされる。

どちらも国産、北海道産にこだわる林さんの「生産者を知る」思いが詰まった食材ばかり。是非、生産者に感謝をしながら食べる料理のおいしさを体感していただきたい。

インタビュー後編では、林さんがオススメする食べ物を紹介。
国産のものにこだわり、生産者を知る彼女が最近ハマっている「おいしいもの」とは?

こうご期待ください。

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