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食す旅 タイ編その1

みなさんにとって、旅の醍醐味とは何でしょう? 私の場合、訪れた土地の文化を体感することにあります。なかでも、人々の暮らしに欠かせない「食」は、とてもシンプルでわかりやすい「文化」のひとつだと考えます。

過去のコラムで、私がやたらと昆虫を食べているのも、昆虫食が動物性たんぱく質に乏しいその土地に於いて、人々が力強く行き抜くために発展した文化であるからです。

と、ちょっと真面目風にスタートしてみましたが、今回は私がタイで食べた昆虫以外のちょっと変わった食べ物をご紹介してみようと思います。

【豚の生肉・生レバー】

これは私がタイのイサーン地方(東北地方)の、あるお宅に遊びに行ったときのことです。家の裏側で若者達が集まって何かの準備をしています。「何をしているの?」とたずねると、買ってきた子豚を絞めて、みんなで食べようと言うのです。

男の子が数名そこにいるのは20代前半の若者を中心に、10代半ばぐらいまでの男の子が数名。さすがに子豚の命を絶つ瞬間は怖かったので、私は家の中に退避していましたが、しばらくして再び現場に戻ると、彼らは小さな命を解体しているところでした。

青年の作業最年長と思われる青年の作業を、10代の少年達が見ている。そこに豚肉が無ければ、コンビニの前にたむろっている日本の若者と変わらないぐらい自然に。でも、目は青年の手元をしっかりと観察しています。

イサーン地方は観光資源に乏しい土地で、尚且つ海に面していないため農業や畜産が産業の中心。近年は海外の企業が、洪水の多い首都バンコクを避け、土地の広いイサーンに進出しているそうですが、まだまだ一次産業が占める割合は高い。

とは言え、ここに集まっている若者の何名が、生涯に豚をさばくかはわかりません(さほど高い確率ではないでしょう)。でも、こうやって自然とイサーン男のたくましさを記憶に刷り込んで成長していくのだと思いました。

食肉へさて、豚さんは青年の手によって食肉へと姿を変えました。このあたりになると、さらに年長の20代後半のお兄さんと、そのお父さんが現れます。彼らがするのは「調理」です。タイでは男性もよく料理をします。特に豚をさばく料理は力が要るので、男性の役割なのかもしれません。

炭火で豚を焼くお父さんが炭火で豚を焼いている間に出てきたのがこちら。

色の薄い方が豚の生肉、濃い方は生レバー正式な名前は知りません。色の薄い方が豚の生肉、濃い方は生レバーです。さばきたてほやほやの超新鮮な一品。何の味付けもされていないので、ものすごい量の唐辛子粉を投下したナンプラーをつけて食べます。臭みが無く、身はプリプリでとても美味しい。何より、日本じゃまず食べられないという特別感がたまりません。

【牛生肉のラープ】

ラープという料理をご存知でしょうか。粗挽きの肉をナンプラー、唐辛子で味付けし、ミントなどの香草と、炒って砕いた米を混ぜ合わせた料理です。肉の種類が鶏なら「ラープ・ガイ」、豚なら「ラープ・ムー」と呼ばれます。日本で食べられるラープは、豚や鶏肉がメジャーですが、本場では生肉を使うことがあります。肉の種類は牛の他、豚もあるそうです。

火を通した肉のラープ日本でも食べられる火を通した肉のラープ(手前)。これはたぶん牛肉なのでラープ・ヌアと呼びます。

牛の生肉を使ったラープ・ヌア・ソッドこちらが、牛の生肉を使ったラープ・ヌア・ソッド。例えるなら、ユッケかな。味付けはかなりスパイシーですが、個人的には火を通したラープより、生肉の方が断然美味だと思います。ただし、相手は生肉です。タイ人でも豚の生肉ラープを食べて亡くなった方がいるそうですので、くれぐれも自己責任でどうぞ。

【野草】

生野菜だけのお皿タイ人は生の野菜をよく食べます。辛い料理が多いので、その箸休め的な存在です。こんな風に、数々の料理のお皿と共に、生野菜だけのお皿が並びます。

市場市場でも生野菜は肉・魚と同等に広いスペースで売られています。

レストランなどでは、きゅうりやトマト、キャベツあたりがよく出てきますが、田舎に行くとよくわからない草が出てくることも多い。

生野菜プレートこれはオブジェではなく、ある農園で出てきた生野菜プレートです。農園の主人があちこちから収穫して来た、新鮮な野草の数々。当然ですが、水洗いなどもされておらず、なんともゲットワイルド。とにかく、出された料理の合間にこれをつまめよってことは確かなんですが、おじさんの訛りがひどすぎて全く言葉が理解できず。私の人生に於いて、わりと上位ランクの謎です。たぶん、一生解けないと思う。

いつだったか、豚さんをさばいていたお宅の庭に、近所のおばさんが長い棒を持って現れたこともありました。「何に使うの?」と聞くと「あの木の葉っぱを採りに来たの、料理と一緒に食べるのよ」と。

自給自足おばさんは食べる量だけ収穫すると帰っていきました。その間、この家の住人が何かを言うでもなく。自給自足、その土地の食べ物が人を育てる。そんな言葉の最たるものを見た気がしました。

つづく

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