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みりんのふるさと、愛知県碧南を訪ねて
~杉浦味淋株式会社

本みりんはどのように造られるのか

みりんの基礎知識から入ってしまったので、前置きが長くなりました。さて、本みりんはどのように造られるのでしょうか。

国内のみりんの産地はいくつかあるのですが、その中でもよく知られている三河みりんの産地、愛知県碧南市にある「杉浦味淋株式会社」に行き、お話を伺ってきました。

醸造のまち、碧南
醸造のまち、碧南

愛知県の知多湾に面した碧南市は、醤油蔵が6軒、みりん蔵が4軒、味噌蔵が1軒、酒蔵が2軒と、醸造がとても盛んなまちです。白醤油発祥の地でもあり、日本最古のみりん蔵がある場所でもあります。なかでもみりんは、三河みりんと呼ばれて全国で親しまれています。

杉浦味淋株式会社の社屋
杉浦味淋株式会社の社屋。奥が工場で、手前は母屋になるそう。

三河みりんの老舗を訪れる

杉浦味淋株式会社は、大正13年創業のみりん蔵。現在の社長は3代目で、紆余曲折ありながらもみりん一筋でやってきた会社です。

「祖父の代から続くみりん蔵ではあるのですが、初代である祖父は早くに亡くなり、その跡を祖母が受け継ぎました。しかし、女手一つでみりんを仕込むことは体力的にも難しかったので、近隣のみりんメーカーから製品を買い入れ、自社でボトリングをして、なんとか経営を続けてきました。」

現社長のお父様でもある二代目の社長は、製造も含め、大手へ流通させる経営方針に転換したものの、大量流通の波に抗えず、価格は取引先のいうまま、取引を続ければ続けるほど価格を下げられる状態で、現社長へと代替わりしたのだそうです。

現社長で三代目の杉浦嘉信氏
現社長で三代目の杉浦嘉信氏。

経営のピンチを乗り切る鍵は
創業者のレシピにあり。

現社長がまずしたことは、大手との取引をやめ、業務用への流通を増やしたことでした。しかし、それでも経営は追いつかず、いよいよ看板をおろそうというときに、物置からお祖父様が書き記した、創業当時のみりんのレシピが見つかったのだそうです。

虫食いでぼろぼろになったレシピは、そんなときだったからこそ杉浦さんの目に入り、「もしかしたらこのレシピで造れば、創業時の気持ちがわかるかも知れない」と思ったそうです。 そして意を決して、そのレシピの復刻をすることにしたのです。

この原点回帰があったからこそ、現在の杉浦味淋株式会社があるといえます。

取引先の蔵から見つかった看板
昔の特約店だった取引先の蔵から見つかったという看板。

周囲の「後押し」も手伝った
創業時の製法を守ったみりん造り

みりんが積まれた、出荷用倉庫のこの看板は、初代社長がみりん蔵を営んでいたときに、特約店だった取引先が掲げていた看板。昔の取引先から、近所の別のみりん蔵の方が見つけてきてくれたのだそうです。創業者の製法でのみりん造りに感銘を受けた周囲の方からの、そうした「後押し」も手伝い、本みりんは完成します。

3種のみりん
左から1年熟成、3年熟成、業務用。色の濃さから3年熟成の濃厚さが想像できる。

熟成することで
これまでの概念を覆す

「業務用のものも基本的には同じ製法で造って、それを醸造用アルコールやブドウ糖で伸ばしています。設備はほぼ日本酒の蔵のものと同じ。みりんを絞る槽や濾過器も同じです。 創業以来の製法でレシピを再現したものが1年もの、更に寝かせたものが3年ものです。」

1年熟成した本みりんを杉浦さんが初めて口にしたとき、その濃厚なうまみとおいしさに驚き、これは! と思い、さらに熟成をしてみることにしたそうです。そして生まれたのが3年熟成のみりん。

実際にテイスティングでその差を比べてみると、3年熟成のほうが香りも濃厚で、うまみとコクがしっかりしていることがわかります。屠蘇散を漬け込んだものは、上質の薬草系リキュールといった雰囲気で、バーなどで使われていても遜色のない味わいです。

熟成のメカニズムというのはまだはっきりとしたことはわかっていませんが、寝かせることでふくらむうまみとコク、そして芳醇な香りは、調味料であるみりんが、紛れもないお酒であることを再認識させてくれ、また、その概念を覆すものにもなっていることに驚きます。

海外の雑誌や飛行機の機内誌などに掲載されたみりん

原点回帰がもたらす
さまざまな効果

創業者のレシピに立ち返り、それを形にしたことで生まれたものがもうひとつありました。それは、さまざまなメディアからの取材。海外の雑誌や飛行機の機内誌などで、そのみりん造りのストーリーが記事になるようになったのです。

今では久世福商店のブランドで、オリジナルのみりんを商品化するようになるなど、少しずつその裾野は広がりつつあります。これも、原点回帰がなければ、起きなかったことでしょう。

常滑焼のかめ
母屋脇にある常滑焼の大きなかめ。奥に見えるものが1斗なので、かなり大きいことがわかる。

みりんはいま
海外で戦えるお酒のひとつ

故・麻井宇介氏(現代日本ワインの父と称される人物)とお話をする機会があったときに、麻井氏がおっしゃっていたのは、「日本のお酒ですぐに戦うことができるのは、焼酎とみりんだ」ということでした。それから20年ほどの年月が経ち、今では焼酎だけでなく、清酒やワインも世界で話題になるようになりました。しかし、そこまで来るには、酒質の向上や販路の拡大にさまざまな人の尽力があった結果ともいえます。

生産量が多くはなく、お酒としての認知が低いみりんが、調味料という枠を超えていくのには、まだまだ時間がかかるかも知れません。調味料としても、京料理が主流となっている日本料理では、みりんや砂糖などの甘みに頼らない料理が多いと言える分、消費量は決して増加傾向にあるものではないと思います。

しかし、しっかりしたものを造れば、日本全国から注文が入り、海外から取材も来る。日本の伝統的なみりんを味わい、使い、残すことも、日本人の役目なのかも知れません。

杉浦味淋株式会社のホームページはこちら http://www.mirinya.com/aisakura.html

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